
古典的な詐欺である「寸借詐欺」
被害が少額であるが故に、「振り込め詐欺」や「結婚詐欺」のように大きく報道されることは無いが、古くからある伝統的な詐欺のひとつである。
今回は実際に寸借詐欺で騙されたことのある筆者がこの詐欺についての解説を行う。
寸借詐欺とは
寸借詐欺とは「財布を落とした」「鞄を盗まれた」など虚偽の状況を演じる事によって、相手の善意や良心につけ込んで金銭を騙し取る詐欺行為の事をいう。
寸借の意味は「わずかな金を借りること。また、少しの間だけ借りること。」とされており、寸借詐欺を意訳すると「虚偽の状況を演じて、わずかな金銭を建前上借用する形をとりつつ、騙し取る行為」となる。
寸借詐欺師の出没スポット
寸借詐欺師は人が集まるところに現われやすい。
一番多いのは駅周辺で、金を引っ張る理由として、
「交通費がないから貸して欲しい」
がほとんどなので、駅周辺ほど話が成立しやすいのだ。
その他では東京や大阪などの人の集まる繁華街などに出没しやすい。
寸借詐欺師は中高年の男性がほとんどで、中高年の男性ほど同情してもらいやすいのだろう。
女性の場合は金をたかるにも危険がつきまとうため割合としては少ない。
ただ、中にはおばあさんやおばさんの寸借詐欺師も存在している。
かわいそうと同情してもらえないからか、割の良い詐欺ではないからか、若年層の寸借詐欺師が逮捕されたケースは少ないという。
騙し取られる金額は?
ほとんどのケースで交通費が名目となるため、貸与を依頼される金額は1000円から3000円程度の少額が多い。
このあたりが絶妙な塩梅で1万円となると躊躇する人が多くなるだろうし、その後に警察に通報される可能性も高くなる。
実際に寸借詐欺で逮捕された事件では1万円や2万円などのそれなりの金額を騙し取っているケースが多かった。
詐欺師も過度のリスクは避けているのだろう。
寸借詐欺師の服装や表情、印象
寸借詐欺師は小汚い貧相な服装をしている事がほとんど。
髪の毛はボサボサで歯が抜けていたりと、どこか同情したくなるようなファッションを着こなしている事が多い。
身なりがよいと真実味が出ないためか、綺麗なスーツを着た寸借詐欺師の話は余りない。
実際の寸借詐欺体験談
まずは私が実際に寸借詐欺に引っかかってしまった体験談を紹介しよう。
ある日、私がお酒の大型店で買い物をした後、店を出て駐車場に向かった。
そして、車のドアを開けて乗り込もうとすると

ゲゲゲの鬼太郎の「サラリーマン山田」にそっくりの男が話しかけてきた。

(寸借詐欺師)
あのーすいません。
A駅まで行く交通費がないので貸してくれませんでしょうか?
※とても申し訳なさそうに。

はあ??
A駅までの交通費がないんですか?
警察に行ったらどうですか?
見た目は変な人であったが、悪い印象はなかった。

(寸借詐欺師)
警察に行っても貸してくれないんですよ。
どこにあるかもわからないし。
そこのA駅から電車を乗れればすぐなので。

はあ、そうなんですか。
いくら足りないのですか?

(寸借詐欺師)
千円もあれば十分です。必ず返済します。
※山田は本当に申し訳なさそうで

千円で良いのですね。
じゃあもう良いですよ。返さなくて。

(寸借詐欺師)
ありがとうございます!!
と、山田は丁寧なお辞儀をして去っていった。
最終的には、こちらも困っている山田がかわいそうなのと面倒臭さもあって1000円くらいなら良いかとお金を渡すことになってしまった。
冷静に考えてみれば、
◆帰宅しなければいけない山田がお金もないのに、どうして酒屋にいて、なぜ私にお金を借りに来たのか?
など、少し引っかかる所もあったが、これも「人助け」と思えば悪くも無いかと考えていた。
ここまでであれば、山田は寸借詐欺師ではないし、ただの人助けで終わる話であるが、この物語には続きがある。
数ヶ月後、私が山田と出会ったA駅からかなり離れた自宅の最寄り駅B駅付近を徒歩で帰宅している時のこと。
自宅マンションのエントランスに入ろうかと言うところで、1人の男に呼び止められた。

振り返ったその視線の先には、あの「サラリーマン山田」である。
相手が中山美穂なら辻仁成ばりに「やっと逢えたね」とつぶやくところであるが、視線の先には数ヶ月前に千円をプレゼントした山田が相変わらず貧相な面持ちでこちらを見つめている。

あの時のサラリーマン山田ではないか。
もしかすると、こいつはあの時の千円を返しに来たのか?
人を信じて良かった。
意外と人生は悪くないものだ。
山田はとても悲しそうな目をしてこちらに話しかける。
本当に貧相な表情をしている。
きっと今までの人生は良い流れではなかったのかもしれない。
でも大丈夫。君のような正直者ならきっとこの先に良いことがある。
幸い私は金銭には困っていない。
私は彼が千円を返すと言ってきても、「それで、うまいもんでも喰ってよ!」と優しく返答するつもりで彼の発言を待った。
そして山田は私にこうつぶやいた。

(寸借詐欺師)
B駅から帰る電車賃がないので、電車賃を貸してくれませんか?
???である。
まさかの追加融資。もちろんこちらは銀行員ではない。
私は山田に聞き返した。
一言一句、確実に聞き取れたが聞き返した。
すると山田は力強くこう答えた。

(寸借詐欺師)
B駅から帰りたいのですが、財布を無くしてしまいました。
電車賃を貸してくれませんか?

本当に山田はうっかりさんだな。
また電車賃に困っているのか。かわいそうに。
とはならなかった。
そもそもB駅から電車に乗りたいのなら、B駅から徒歩で帰宅してきた私に声をかけるわけがない。
乗りたい駅から離れていく人間の後をつけて金を借りるなど、どう考えても矛盾している。
更に、前回は車のドアを開けた時に声を掛けられ、今回は自宅のマンションに入る時に声を掛けられた。
つまり、逃げにくい環境に陥った瞬間に山田は声を掛けて金をせびっているのだ。
車とマンションに入る瞬間に声を掛ければ、「持ち合わせが無い」と即座に逃げられることがない。
車なら乗り込んで更にエンジンをかけて、横にいる山田を避けて出て行かないといけない。
マンションなら自宅が知られている感がして、どこか気持ち悪さが残る。
その時に私は確信した。
こいつはなかなか凄腕の寸借詐欺師だと。
こんな貧相な顔をしているくせに、目の付け所は中々なものだと感心すらしてしまった。
ただ、寸借詐欺師だとわかってしまえば、選択肢はひとつ。
私は山田に対してこう返答した。

そこをまっすぐ行けば交番がある。
そこで貸してくれるからそちらに行ったらいいわ。
すると山田は

(寸借詐欺師)
警察は貸してくれないんですよ!
とこちらの雰囲気がおかしいことに気づいたのか、少し語気を強めてきた。
私はここが潮時だと思い怒号混じりに

あかん。あかん。みんなちゃんと働いてるんや。
そんなんしてたら、ろくな人生送られへんぞ!
すると山田は

(寸借詐欺師)
とても困っているんです。
お願いします。
と、泣きながら必死の物乞いを始めた。
中山美穂の涙なら話は変わるが、寸借詐欺師だと判明した山田が泣いたところで何のシンパシーも発生しない。
最終的には

ドアホ!
男が泣くな。
泣くくらいなら死ぬ気で働け!
彼は「ええっ~」と驚いた顔をしていた。
泣き落とし作戦で今まで詐欺銭を獲得して来たのだろう。
そして、こちらがブチ切れる形でマンションの自宅に入っていった。
後ろを振り返ることはしなかったが、そこから彼がついてくることはなかった。
山田がその後にどういう行動を取ったのかはわからないが、自在に涙を流す演技ができる男だけに、こんなことでへこたれることはないだろう。
また次の獲物を探して街を徘徊しているに違いない。
ちなみに、山田が前回の事を覚えていて今回も声を掛けてきたのかはわからない。
彼の基準に適合した結果、たまたまこちらが2回ターゲットとなった可能性もある。
ただ、今回は偶然にも同一人物から声を掛けられたことで寸借詐欺師だと判明したわけであるが、実際の所、1回目だけの場合だと「お金の無い、かわいそうな人を助けた」という印象しかなかった。
寸借詐欺は人の善意を利用した詐欺だけに、その方法論は巧妙に構築されている。
騙されても尚、簡単には詐欺かどうかを見破ることは難しいように思える。
寸借詐欺の手口
寸借詐欺の手口としては様々なケースがあるが、基本となる手法はどれも同様である。
2.財布を無くしたなど適当な理由をつけて借金の申し出をしてくる。
3.金銭を貸す。
4.連絡をする。振り込むなどと伝えられて、その場を去る。
5.後日、待てど暮らせど連絡や振り込みはなく、騙されたことが発覚する。
基本パターンは以上である。
この中で唯一違いが出るのは、金を持っていない理由。
その理由は様々で
◆暴漢に襲われた。
◆会社が無くなった。
◆酔っ払ってしまった。
◆震災で被災して
◆ヤクザに追われている。
など、ありとあらゆる都合の良い理由が存在する。
尚、借りたお金で詐欺師が向かう先に指定するのは圧倒的に東北・北海道地方が多いという。
出稼ぎ、震災などのキーワードを巧妙に使い分けてくるのだ。
本当に東北出身者が多いのかは不明であるが、同じ日本の地方でも宮崎や沖縄など南下してしまうと「バカンス」のようなイメージが連想されてしまい、金銭を引っ張りにくいからかもしれない。
警察に通報した場合はどうなるのか?

連絡先や振込先を教えたにも関わらず、約束した期日になっても返済がない。
実際に相手の電話番号やメールアドレス、今ならLINE IDがわかっている。
急いで警察に駆け込めば、寸借詐欺で被害届は出せるのか?
結論から言うと、ほぼ被害届は出せない。
というのも、金銭の返済がないからといって、最初から相手がこちらを騙そうとしていたのかは誰にもわからない。
もしかすると相手は返済を考えているが、携帯を紛失するなど、何らかの事情によってこちらと連絡がつかないだけなのかもしれない。
こちらが一方的に詐欺だと言っているだけで、警察に言わせれば状況的にはあくまでも個人間での金銭の貸し借りでしかない。
犯罪性が薄く、詐欺という刑事事件にはなり得ないということになり、被害届が受理されることもなければ捜査が行われる事もないのだ。
寸借詐欺で逮捕されることもある
和歌山県警は、家電大手「パナソニック」の幹部をかたって通行人から現金をだまし取ったとして、詐欺容疑で指名手配されていた自称宮崎市赤江、造園設計事務所代表、森本豊容疑者(40)を逮捕した。「私がやったことではない」と容疑を否認している。逮捕は16日付。
逮捕容疑は昨年8月7日午後6時ごろ、広島市安芸区の路上で、通行中の男性介護士(30)にパナソニックの総務部長を名乗り、「一緒に来た従業員が先に帰ってしまい、お金がない。お金を貸してほしい。必ず返す」などと持ちかけ、現金2万円をだまし取ったとしている。
広島県警が昨年9月に指名手配し、大阪府警も今月に入り、同様の詐欺容疑で指名手配していた。和歌山県警によると、休み中の警察官が16日、和歌山市六十谷の路上を歩いていた森本容疑者を発見した。
府警やパナソニックによると、同様の被害は2府10県で約60件確認されているという。
大学教授を装い「財布をなくしたのでカネを貸してほしい」などと嘘を言って、女性(60)から現金をだまし取ったとして、警視庁上野署は、詐欺容疑で、住所不定、無職、水落盛稔容疑者(48)を逮捕した。
同署によると、水落容疑者は「生活費を稼ごうと思った」と容疑を認めている。
逮捕は23日。 逮捕容疑は平成28年8月下旬、東京都台東区の上野公園内にある上野東照宮前で、女性に「東大出身で新潟大の教授」と名乗り、「昨日酒を飲んで持ち物全てをなくした。新潟に戻る新幹線代を貸してほしい」と嘘を言って、現金2万円をだまし取った疑い。
上野署によると、水落容疑者は名所や旧跡の知識が豊富で、東大の赤門などを案内していた。同様の手口で約20人から現金を詐取した疑いがあり、同署は捜査している
全国各地で数十件もあるような常習犯になると同様の被害が警察に届けられるため、警察が捜査に動き出すこともある。
認知件数が数十件であるだけで、おそらくその何倍もの詐欺を行っていたと思われる。
尚、被害金額が数十万円程度の少額ならば、初犯の場合は執行猶予付きの判決になることが多い。
実刑になるのは常習犯であったり、被害額がかなりの金額になった場合に限定される。
ただ、事件になる事はまれで、ほとんどのケースでは被害にあった場合は泣き寝入りになるのが実情と言える。
寸借詐欺への対策

一番の対策は毅然とした態度で断わることだ。
強く拒否反応を示せば、それ以上突っ込んでくることも、逆上される事もまずない。
そもそも、寸借詐欺は犯罪者の中でも「小者」しかしない犯罪なのだ。
一番の断わり文句はシンプルに「お金がない。持ち合わせが無い。」でいいだろう。
その一言で間違いなく詐欺師は撤退する。
その他では、「警察に行けば貸してくれる。どこどこに交番があります。私は急いでいるのでこれで」と言えばいい。
警察という言葉を聞いただけで、まず相手は怯む。
寸借詐欺師の特徴として、彼らは何らかの理由をつけて警察には行きたがらないそぶりを見せる。
もっと言えば、行ってきたけど門前払いで貸してくれなかったと嘘をつく。
常習犯の場合は「警察に行っても貸してくれないんだよね」と実情を話し出すことがある。
交番では建前上、貸与する金銭を用意している。
持ち逃げが多いため実際には警察で貸してくれることはほとんど無いのだが、それを知ってか知らずか彼らは「警察は貸してくれない」と嘘を言ってくる。
そうなってしまえばどうしようもないので、最初の断わり文句「お金がない。持ち合わせが無い」で対応するしかないだろう。
断わりを入れた後は、冷たい顔をして足早にその場を立ち去れば追いかけてくることはない。
仮に追いかけて来た場合は、警察に通報すれば良いだろう。
寸借詐欺かもしれないが、お金を貸したい場合

寸借詐欺の可能性がある。
ただ、目の前にいるこの人を信じてお金を貸したいという人も少なからずいるだろう。
※面倒なので小銭を渡して退散して貰いたいという人もいるだろうが。
なにせ彼らは役者だ。
◆貧相な表情。
◆同情を誘う作り話。
全てが絶妙に演出されていて、そこら辺のテレビに出ている俳優よりも気持ちの入った演技ができる。
生活がかかっている人間の演技は生活の保障されたテレビ俳優とはレベルが段違いだ。
お金を貸す場合の注意点
◆返済期日を決めて、支払い方法をどのようにするか明確にする。
寸借詐欺師は自らは偽名を使い、こちらの住所だけを聞いておいて、後日現金書留で郵送するという事だけを告げて、足早に去っていくケースが多い。
返済期日はいつなのか?
返済は銀行口座に振り込むのか、現金書留なのか?
このあたりは明確に決めておく必要がある。
◆身分証、名前や住所がわかるものを見せてもらう。そしてそれを写真で撮影する。
寸借詐欺師の場合、まず、身分証を見せることはない。
ほとんどのケースでは、「今は持っていない」か「紛失した」で対応してくる。
そうなった場合は、詐欺師と疑った方が良いだろう。
相当、腹の据わった詐欺師の場合は免許証を見せてくる場合がある。
ほとんどの被害者が警察には通報しないこと、通報したとしても警察がほとんど動かない事を知っているためか、余裕の対応を見せる寸借詐欺師もいる。
そのレベルまで行くと、判断がつきづらく、なかなかの強敵といえる。
身分証を見せてきた場合は、必ずスマホで撮影保存しておく。
◆顔と身体全体をスマホで撮影する。
顔と身体全体の写真を撮影保存する。
「もし、返済がない場合はSNSを利用してこの件を拡散しますからね。」
と告げておけば、相手は確実に怯む。
ここまでするとまず間違いなく
「そんな面倒なことするならもういいわ。」
と撤退する事がほとんどだろう。
実際には1000円から数千円程度がほとんどなので、返って来ない事を理解して貸している人がほとんどなのが実情といえるが、ここまで対応しても相手がお金を要求してきた場合は、本当に困っている人と判断してもいいかもしれない。
まとめ
もし疑わしい状況になったら、「足早に立ち去る」「警察で借りてください」というのが最善手と言える。
警察を否定しだしたら、それは間違いなく寸借詐欺師だ。
騙された場合には善意を利用された事に、はらわたが煮えくり返る思いをするかもしれないが、相手の住所や電話番号がわかっていたとしても、被害届を受理して貰い、裁判をして取り返すには相当な費用と時間がかかる。
そもそも、寸借詐欺をするような人間が、差し押さえられるような財産を持っているとは考えにくい。
どうせならば、その費用で寸借詐欺師の行きたがらない沖縄にでも旅行した方が、有意義に時間が使えるはずだ。
相手に金を渡すのならば、返ってくることを期待せず、プレゼントしたものとして対応すると良いだろう。
以上、寸借詐欺師に騙されたことのある、間抜けな人間からの報告である。