
ワーキングプアとは?その意味と定義
ワーキングプア(working poor)とは1990年代にアメリカで作り出された言葉で、日本語訳では「働く貧困層」と呼ばれています。
省略して「ワープア」とも。
自然発生的に作られた言葉であるため明確な定義はありませんが、
「正社員として、または正社員並にフルタイムで働いているのに貧困」
という状態・所得層を意味します。
ワーキングプアの年収
ワーキングプアとして規定された明確な年収はありませんが、おおよその目安として年収200万円未満を指すことが多いようです。
正社員並にフルタイムで働いたとしても十分な収入がもらえない状態であれば、ワーキングプアといえるでしょう。
具体的な金額で言うと、額面の月額給与が10万円台前半であればワーキングプアの状態といえます。
ワーキングプアが生まれた原因

ワーキングプアは、いくつかの要因が複雑に絡み合った結果生み出されたものです。
まず、第一にバブル崩壊後からの日本の景気後退がその根本的な原因です。
その結果として
1.企業が人件費を抑制するようになった。
どんなに業績が悪化しても、簡単には人件費だけは削減できない。
企業はその事実をバブルの痛手と共に知ることになった。
結果として、人材採用に慎重になり、給与も抑える方向へとシフトした。
2.労働市場の規制が緩和され派遣社員や契約社員などの非正規雇用が増加した。
企業が人件費を抑制することと連動して、安い賃金で雇用でき、なおかついつでもクビを切ることのできる非正規雇用が増加した。
非正規雇用者は容易な仕事しか与えられないため、スキルが磨かれることなく年齢だけを重ねていくことになる。
そのため一度、非正規(ワーキングプア層)になると抜け出すことが難しくなる。
3.経済のグローバル化で国際競争が激しくなった
かつては日本国内で全ての工程を賄っていた日本企業も経済のグローバル化によって世界規模でのコスト競争が発生したことによって、単純労働はできる限り、人件費の安い海外に移すようになった。
結果として日本国内の就職先が減少し、経済も縮小。
かつてのような正社員採用や終身雇用が衰退する事に。
上記の様な要因が絡み合った結果、低賃金でも働かざるを得ない「ワーキングプア」が日本社会を浸食することになりました。
ワーキングプア(年収200万円未満)の割合
まずは就業構造基本調査から抽出した、非正規の割合推移をご覧ください。

※総務省 就業構造基本調査(2017年)より
バブルが崩壊した1990年前半は約20%だった非正規率は2017年には約38%にまで上昇しています。
ワーキングプアの割合(男女計)
年 | 年収200万円以下 | 合計 | 割合 |
---|---|---|---|
1999年 | 803万7299人 | 4498万3789人 | 17.9% |
2000年 | 824万6983人 | 4493万9067人 | 18.4% |
2001年 | 861万5665人 | 4509万6540人 | 19.1% |
2002年 | 852万9561人 | 4472万4071人 | 19.1% |
2003年 | 902万397人 | 4466万1234人 | 20.2% |
2004年 | 963万1881人 | 4453万192人 | 21.6% |
2005年 | 981万1620人 | 4493万5897人 | 21.8% |
2006年 | 1022万7540人 | 4484万5126人 | 22.8% |
2007年 | 1032万3045人 | 4542万4696人 | 22.7% |
2008年 | 1067万4609人 | 4587万2872人 | 23.3% |
2009年 | 1099万8743人 | 4505万6480人 | 24.4% |
2010年 | 1045万2456人 | 4551万9825人 | 23% |
2011年 | 1069万2453人 | 4565万7213人 | 23.4% |
2012年 | 1089万9990人 | 4555万6011人 | 23.9% |
2013年 | 1119万8922人 | 4645万4211人 | 24.1% |
2014年 | 1139万1942人 | 4756万2672人 | 24% |
2015年 | 1130万7903人 | 4793万9728人 | 23.6% |
2016年 | 1132万3178人 | 4869万1042人 | 23.3% |
2017年 | 1085万1737人 | 4945万739人 | 21.9% |
ワーキングプアの割合(男)
年 | 年収200万円以下 | 合計 | 割合 |
---|---|---|---|
1999年 | 175万338人 | 2838万5569人 | 6.2% |
2000年 | 186万7584人 | 2838万8636人 | 6.6% |
2001年 | 195万7138人 | 2834万2439人 | 6.9% |
2002年 | 192万6172人 | 2811万4487人 | 6.9% |
2003年 | 212万7319人 | 2803万3418人 | 7.6% |
2004年 | 239万9822人 | 2752万2213人 | 8.7% |
2005年 | 244万5272人 | 2773万9437人 | 8.8% |
2006年 | 263万19人 | 2745万2147人 | 9.6% |
2007年 | 263万5186人 | 2781万8658人 | 9.5% |
2008年 | 278万2454人 | 2781万7534人 | 10% |
2009年 | 298万5177人 | 2719万2588人 | 11% |
2010年 | 267万7286人 | 2728万6395人 | 9.8% |
2011年 | 276万8561人 | 2730万7970人 | 10.1% |
2012年 | 293万9803人 | 2726万2168人 | 10.8% |
2013年 | 293万5482人 | 2753万5369人 | 10.7% |
2014年 | 301万3207人 | 2805万85人 | 10.7% |
2015年 | 295万1677人 | 2831万3613人 | 10.4% |
2016年 | 298万3830人 | 2862万2202人 | 10.4% |
2017年 | 291万4401人 | 2935万6926人 | 9.9% |
ワーキングプアの割合(女)
年 | 年収200万円以下 | 合計 | 割合 |
---|---|---|---|
1999年 | 628万6961人 | 1659万8220人 | 37.9% |
2000年 | 637万9399人 | 1655万431人 | 38.5% |
2001年 | 665万8527人 | 1675万4101人 | 39.7% |
2002年 | 660万3389人 | 1660万9584人 | 39.8% |
2003年 | 689万3078人 | 1662万7816人 | 41.5% |
2004年 | 723万2059人 | 1700万7979人 | 42.5% |
2005年 | 736万6348人 | 1719万6460人 | 42.8% |
2006年 | 759万7521人 | 1739万2979人 | 43.7% |
2007年 | 768万7859人 | 1760万6038人 | 43.7% |
2008年 | 789万2155人 | 1805万5338人 | 43.7% |
2009年 | 801万3566人 | 1786万3892人 | 44.9% |
2010年 | 777万5170人 | 1823万3430人 | 42.6% |
2011年 | 792万3892人 | 1834万9243人 | 43.2% |
2012年 | 796万187人 | 1829万3843人 | 43.5% |
2013年 | 826万3440人 | 1891万8842人 | 43.7% |
2014年 | 837万8735人 | 1951万2587人 | 42.9% |
2015年 | 835万6226人 | 1962万6115人 | 42.6% |
2016年 | 833万9348人 | 2006万8840人 | 41.6% |
2017年 | 793万7336人 | 2009万3813人 | 39.5% |
民間給与実態統計調査から抽出した年収200万円以下の人数と割合のデータです。
1999年から継続して増加傾向でしたが、景気回復と人手不足による賃金の上昇もあり、2014年頃からワーキングプア層は減少しています。
◇男性は人数も割合も共に増加している。
実はこの統計を調査するまでは、非正規雇用は男性も女性も増加しているため、年収200万円未満のワーキングプア層も男性・女性共に増加し続けていると考えていました。
しかし、実際には女性の数値にはさほど変化はなく、男性のみ年収200万円未満が増加しているという全く意外なデータとなっています。
正規採用を企業が厳選した結果、正規で働く事の多かった男性が主に割を食う形になったのかもしれません。
ワーキングプア層増加による問題
ワーキングプア、低所得者の増加は日本社会にとって何ひとつ良いことはありません。
ワーキングプアが増加することによって引き起こされる問題は様々なものがありますが、最終的には日本の根幹を揺るがすほどの惨状を引き起こす可能性すらあります。
◇貧困の連鎖・固定化
◇少子化の進行
まず、ワーキングプア層は収入が少ないために結婚して子供を育てることが厳しいという現実があります。低収入層は結婚にも出産にも消極的です。
そうすると出生率が低下して、日本全体で少子化が進行します。
少子化が進行すると国の経済力が低下し、不況になっていきます。
不況になるとまた企業が雇用に力を入れることができなくなり、非正規やワーキングプア層が増加していきます。
後はエンドレスに悪循環のループが継続され、最終的には日本の経済が破綻してしまう可能性すらあるのです。
弁護士や税理士、公務員も例外ではない

・人員増加による就職難。
・ライバル増加による仕事が満足に取れない低所得弁護士の出現。
◇税理士
・税理士の人員増加。
・クラウド会計の登場による業務の減少。
◇公務員
・公務員自体の収入・待遇は下がっていないが、賃金の低い有期雇用の非正規職員・非常勤職員が増加している。
など、有名資格の弁護士や税理士でも年収200万円に満たないワーキングプア層が増加傾向にあるといいます。
かつては資格を取得するだけで、それなりの収入が約束されていた人気資格ですが、現在では資格に加えて営業力がなければ十分な収入が得られないようになってきています。
ただ、絶望的に収入が低いワーキングプア層と比較すると、その資格や知識を活かして「企業に就職」という選択肢がとれる分、真のワーキングプア層とは問題の根深さが異なるように思えます。
採用試験に合格した公務員は現在でも大企業クラスの収入が約束されています。
その一方で人手不足を補う形で雇用される有期雇用の非常勤職員が増加しています。
非常勤職員の給与は最低賃金を少し上回る程度で、似たような業務を担当している正規の公務員とは倍近くの給与差になることもあります。
国がその様な状況を作り出して良いのか?という意味も込めて「官製ワーキングプア」とも呼ばれています。
ワーキングプアと生活保護の収入比較

「ワーキングプアとして働くなら生活保護をもらった方がましだ。」といった意見もマスコミで盛んに報道されていますが、実際はどうなのかを実際の数値を使用して検証してみました。
日本の代表的な都市である、東京23区と大阪府大阪市の生活保護支給額です。
※2018年データ
都道府県 | 生活保護支給額 |
---|---|
東京都23区 (30歳独身) |
13万2930円 |
東京都23区 (30歳・小学生1人) |
18万8630円 |
東京都23区 (30歳・小学生2人) |
23万9560円 |
大阪府大阪市 (30歳独身) |
11万9230円 |
大阪府大阪市 (30歳・小学生1人) |
17万2630円 |
大阪府大阪市 (30歳・小学生2人) |
22万1760円 |
東京都
東京都23区で30歳独身の場合、生活保護費は約13万2千円。
年収は158.4万円。
東京都の最低賃金は時給約985円(2018年10月)ですから、時給985円x8時間x22日出勤として、月給17万3360円となり、生活保護費よりも約4万円程度高くなります。
大阪府
大阪府大阪市で30歳独身の場合、生活保護費は約11万9千円。
年収は142.8万円。
大阪府大阪市の最低賃金は時給約936円(2018年10月)ですから、時給936円x8時間x22日出勤として、月給16万4736円となり、生活保護費よりも約4万5千円程度高くなります。
この結果を見る限りでは、独身の場合は生活保護費が正規の労働者よりも高くなるということはなさそうです。
子供がいるケース
ただし、子供が一人でもいる場合は、東京・大阪共に生活保護費の方が収入は高くなります。
都道府県 | 生活保護支給額 | 正規労働者 |
---|---|---|
東京都23区 (30歳・小学生1人) |
18万8630円 | 17万3360円 |
東京都23区 (30歳・小学生2人) |
23万9560円 | 17万3360円 |
大阪府大阪市 (30歳・小学生1人) |
17万2630円 | 16万4736円 |
大阪府大阪市 (30歳・小学生2人) |
22万1760円 | 16万4736円 |
子供がいてもいなくても、正規の労働者の収入が増える事はありませんが、生活保護費は家庭の状況に応じて支給されるため増額となり、数字の上では生活保護の方が得になる計算になります。
「生活保護の方が得」というマスコミ報道も子供が存在している状態であれば、「真実」という結果となりました。
ワーキングプアの解決策

ワーキングプアの解決策としては「個人」と「国」の解決策があります。
国の解決策
国として行うべき対策はワーキングプアが発生するような仕事・賃金を認めないこと。
具体的には
・派遣社員など不安定雇用の禁止
上記の二つを見直すことができれば、確実にワーキングプアは根絶が可能です。
ただ、日本企業全体が協力して、更に企業として従業員に十分な賃金を支払えるだけの大きな利益をあげることが条件となり、実現はほとんど不可能です。
個人としての解決策
仮にあなたがワーキングプアの職場で働いているとすれば、その職場を抜け出すしか方法はありません。
・資格職、技術職、専門職を目指す。手に職をつける仕事を目指す。
低賃金のほとんどは誰でもできる単純労働で、特殊な知識や技量が必要な仕事ほど賃金は高くなります。
単純労働は避けて、必要とされる「技術・知識」を身につけることが、安定した収入を得るための王道といえます。
2020年現在は人手不足が顕著化し、転職業界は空前の売り手市場です。
自身を高く評価してくれ、なおかつ技術と知識を得られる職場を選択することが、最善の解決策といえるでしょう。